まやの林檎哲学・画面比率とメタファ。またはスマホとタブレットの境界線 | Atelier Maya

まやの林檎哲学・画面比率とメタファ。またはスマホとタブレットの境界線

概要

 このページでは、スマホ、タブレットの画面比率の違いを通して、スマホとタブレットの境界線を考えます。

 Quoraに以下のような質問がありました。

「スマホとタブレットの明確な違いはありますか?iPhoneが更に巨大化したらiPadと呼んでも問題ないですか?」

 Quora 

 この質問に対する私の考えをあらかじめ述べると、以下の様になります。

Q.スマホとタブレットの明確な違いはありますか?

A.ある。片手で持って操作できるか否か。ただし、用途の面でスマホとタブレットを明確に切り分けて差別化できるかはデザイン次第。

Q.iPhoneが更に巨大化したらiPadと呼んでも問題ないですか?

A.iPhoneは片手で持ってその手で操作できる限界を超えて巨大化しない。片手で持てるかぎりそれはiPhoneであり、片手で持てないところまで巨大化したものはiPadである。今後折りたたみ式や巻き取り式の画面を搭載し、片手で操作まで可能な画面サイズと片手では操作が出来ない画面サイズとを1台でまかなえるデバイスが登場した場合、前者の状態ではiPhoneとして、後者の状態ではiPadとして振る舞うのではないか。

 そして、私の考えるこの記事の結論は以下の通りです。

・スマホは片手で使うことを想定しているが、タブレットはそうではない

・タブレットは設計次第で紙の代わりになるが、スマホはそうではない

 そんなこと分かっているという人は、恐らくこのページを読む必要はありません。なお、16:10は黄金比に近いですが、これについては検討しません。

Android端末とiPhoneに共通する部分

 AndroidスマホとiPhoneは、実際のところ同じような進化を遂げています。すなわち画面が3~4インチ台から5~6インチ台に巨大化し、ベゼルが狭くなり、画面比率が9:16だった(初期のiPhoneは2:3でした)のが、長辺側がより長くなり、画面上部のカメラの周囲や画面下部の物理ボタン領域をディスプレイが侵食し、メインカメラが多眼化(実際には一眼カメラを複数搭載しているだけなので、この表現は正しくないのですが)するという変化です。

 なぜスマホが、ノッチやパンチホールという歪さを残したままカメラの周囲にまで画面を拡大させたのかについては、スマホは縦に情報が続くので、縦方向の表示領域を拡大するのは自然な流れだという指摘をどこかで見ました。私もこれに賛成しますが、その前提が欠けています。

 すなわち、英語を始めとしたほとんどの言語は縦方向に情報が伸びるのに、なぜ特にスマホについてそれを指摘するのかという点です。この理屈を実直に適用すると、パソコンは駅の柱に埋め込まれた縦長のデジタルサイネージのような画面を使うべきだ、という結論が出てきそうですが、おそらくほとんどの人がそれを否定するでしょう。ではなぜスマホにはそれが言えるのか。それはスマホが縦向きでの使用を前提としているからであり、かつそのデバイスの視聴距離において、人間の視界の垂直方向の限界を超えない範囲でしか伸長せず、しかも横方向にはこれ以上伸長できないからです。言い換えると、スマホは横向きにして使うものではないからです。動画を見る時やゲームをするときに横向きにするだろうという指摘はあるでしょうが、スマホが生まれた結果として縦長動画や縦向きのゲームも普及しました。これらはガラケーからの文脈で説明されるべきものもあるでしょうが、それらについては置いておきます。

 なお、近年のXperiaが9:21を採用しているのもこの流れで説明出来ます。SONYは映画のアスペクト比に合わせたのだとアピールしていますが、スマホで消費される横長映像のほとんどは16:9でしょうから、実際には縦方向の表示領域を拡張したかったというのが本音だと思います。そもそも、本当にこだわって映画を楽しみたい人は大画面で見るでしょうから、スマホではなくテレビで21:9のモデルを発売すべきでしょう。SONYはテレビ事業を持っていますし。

 そのXperiaからは、もうひとつ指摘したいことがあります。幅です。フラッグシップモデルのXperia 1 Vの幅は71mm、下のグレードのXperia 5 Vは68mmです。Xperia 1より上位の特殊なモデルとしてXperia PRO-Iもありますが、こちらも72mmです。一方で、iPhone 15シリーズは15が71.6mm、15 Proが70.6mmと、ベースモデルの6.1インチ系はXperiaとほぼ同じ幅であるのに対し、6.7インチ系の15 Plusは77.8mm、15 Pro Maxは76.7mmと、Xperiaより広くなっています。最大幅の違いは、それなりに日本人向けに開発したであろうXperiaと、グローバルモデルのiPhoneとの違いで説明出来ると思われますが、重要なのはこれが片手で保持できるおおよその限界であろうという点です。

 かつてiPhoneの画面比率が9:16であったころ(SEはまだ9:16ですが)、iPhone 6 Plus〜iPhone 8 Plusとして大画面モデルがありました。これは5.5インチで、8 Plusの幅は78.1mmでした。iPhone 8と同時に発表されたiPhone Xから、iPhoneは縦方向に表示領域を拡大していきます。おそらくAppleの考えるスマホの幅の限界点は80mm弱のところにあるはずです。

 つまり、縦向きで、片手で保持(しながらその手で操作)することを前提としたスマホである以上は、この幅を超えることが出来ないのです。

AndroidタブレットとiPadで異なる部分

 では、なぜスマホは縦向きで使うのでしょうか。私の考える理由は、スマホは横向きにした途端に両手を使わなければまともに操作できなくなるからです。片手でも多少の操作は可能でしょうが、画面の反対側は不可能でしょう。しかし両手を使うのであれば、そもそもスマホの小さな画面にこだわる必要はありません。おそらく、ここでスマホをそのまま拡大しようとしたのが一般的なAndroidタブレットで、単なるiPhoneの拡大にせず使用形態の違いを織り込んだのがiPadだと考えます。ただし、それぞれのデバイスを最初期から見てきた訳ではないので、現状では結果的にこうなっている、という前提で展開します。

 Androidタブレットの画面比率は10:16が主流です。一方のiPadは3:4をベースに、若干長辺側が伸びて3:4.3程度のモデルがありますが、ここでは3:4として扱います。前者はまだスマホの画面比率が9:16だったころからずっとこうです。9:16ではなく10:16なのはAndroidのナビゲーションバーを表示して狭まった後の領域で9:16を確保するためではないか、との説は時々目にしますが、実際のところは分かりません。

 スマホよりもタブレットの方が好まれる用途というと、動画視聴、電子書籍利用がまず思い浮かびます。書類の作成など文字入力が絡む用途は一般に物理キーボードがある方が好ましいとされるため、またゲームについてはゲームコントローラーを利用しなければむしろスマホの方が操作しやすいでしょうから、それぞれ除外します。

 そして、よく指摘される点に行き着きます。iPadはその画面比率のため、16:9の動画をフルスクリーンで再生すると上下に大きな空白が出来て不自然という点です。全くもってその通りだと思います。4:3は16:12ですから、16:9の動画を再生すると画面全体のなんと25%は空白領域になるわけです。何故でしょうか。

 初代iPadは768*1024ですから、単にメジャーな解像度として3:4が選択されたという経緯だったのかもしれません。ですが、もしそうであるならiPhoneの画面比率が数回変化しているように、iPadの画面比率も変化していていいはずです。かつてのテレビ放送(SDTV)は4:3でしたが、iPadが発表された2010年の時点で、少なくとも日本では、16:9のHDTV(大雑把に言えば、日本でいうハイビジョンで、デジタル放送)はとっくに放送開始していました。それにつられて、テレビ放送に限らず動画ソースは16:9が一般的になりましたし、もしSDTVに合わせたのであれば、現在のiPadは9:16に近づいていなければいけないはずです。

 では、写真はどうでしょうか。写真撮影のフォーマットは色々で、主なものに3:2、4:3、少し変わったところで1:1、5:4、7:6などがあります。3:2にはCanonのEOSシステム、NikonのZマウントシステム、ペンタックスKマウント、富士フイルムのXシステムなどが、4:3にはOM SYSTEM(旧オリンパス)・Panasonicのマイクロフォーサーズシステムなどがありますが、実はiPhoneのカメラで静止画を撮る際のフォーマットも4:3がデフォルトです(動画は16:9)。ちなみに、Atelier MayaのPhotosルームではマイクロフォーサーズシステムで撮影した写真を展示しています。まやはマイクロフォーサーズ推しです。閑話休題。iPadの画面比率ももしかするとこれに合わせたのかもしれません……が、それを維持している理由にはなりません。

それぞれが目指したもの

 一旦話をAndroidに移します。Androidのカスタム版であるFire OSを搭載したAmazonのFireタブレットシリーズについてです。このシリーズは、かつてはKindle Fireという名称でした。すなわち、電子ペーパーを搭載したグレイスケール表示のKindleシリーズに対して、カラー液晶を搭載してマンガや雑誌などをカラーで読めるKindle端末として登場したのがKindle Fireです。

 ところで、電子ペーパー端末である初代Kindleの画面比率は3:4でした。紙の置き換えだった画面の比率として、3:4が選択されたということになります。アメリカの出版事情には明るくありませんし、電子書籍には紙の書籍のレイアウトをそのまま持ってくるわけでもないのですが、3:4という比率と紙との間に一定の親和性は認められるのでしょう。Kindleの画面比率は、最新のKindle Scribeでも3:4のまま維持されています。特にこのKindle Scribeは、スタイラスペンでの書き込みに対応していて、まさに紙の置き換えのための端末であると言えます。

 しかし、彩度を手に入れた初代Kindle Fireは、1024*600という画素数に変貌します。およそ17:10ですから、16:9とほぼ同一視してよいでしょう。その翌年に発売されたKindle Fire HD 7は、1280*800、すなわち16:10の比率になりました。実際に使うと分かりますが、この比率の画面を縦長に持ってKindle本を表示すると上下の空白部分がかなり目立ちます。紙を置き換えるならば電子ペーパーのKindleと同じ比率を採用するでしょうから、これはそもそも紙を置き換えるためだけの画面として設計されていないのです。初代Kindle Fireの3年後、Kindle FireシリーズはFireシリーズになりました。このシリーズは、最初からAmazonビデオ(プライムビデオ)やブラウザといったタブレットの基本機能のひとつとしてKindleも含んでいる、という考えで設計されていたように思われます。これでは単に画面が大きいスマホと言わざるを得ないでしょう。その他大多数のAndroidタブレットの画面比率も同じ理屈で説明出来ます。もともと電子書籍の文脈の中にないそれらは、言うに及ばないでしょう。

 では、電子ペーパーKindleと同じ比率のiPadはどうでしょう。もちろん出版物の判型は様々ですが、多くの場合FireシリーズよりもiPadの方が表示される余白は少なくなります。

 ところで、レイアウトを保持したまま紙の代わりとなるにはある程度画面サイズが大きいことが必要なのは論を待たないところでしょう。一般的な紙の縦横比は1:√2です。√2=1.4とすると、この1:√2=3:4.2ですから、iPadの画面比率にほぼ一致します。そのため紙の資料をスキャンしたものをiPadで表示すると、ほぼ画面一杯に紙面が表示されます。なお、計算してみると、iPadの表示領域は、12.9インチiPad ProはB5より一回り大きいくらい、11インチiPad Proと10.9インチiPad AirはB5より小さく、A5より大きいくらい、10.2インチiPadはA5より短辺が長いが長辺が若干短く、8.3インチiPad miniはB6より僅かに小さい程度となっています。そしてこれらの機種の現行モデル(順に第6、4、5、9、6世代)では、その全てでApple Pencilが使えます。

 なお付言すると、OPPO Pad 2がアスペクト比7:5を掲げていて、公式ページで「A4サイズに近い読み心地」とアピールしています。キーボードアクセサリやスタイラスペン、トップボタンや音量ボタンの配置など様々な点でiPadへのリスペクトが感じられる機種です。この画面比率を活かして、本や書類をタブレットで読むという価値を新しいものとして訴求しているようですが、確かにAndroidタブレットとしてはあまり前例のないものでしょう。

 初期のiPadは、確かに単に画面の大きいiPhoneの域を出なかったかもしれません。ですがApple Pencilの登場以降、iPadにはiPhoneはおろか、Macにもない独自の価値が備わりました。見るだけでなく、書くという面においても紙の代わりになりうる訳です。MacにはiPadやiPhoneを使って書き込みを行う連係マークアップ、連係スケッチという機能がありますが、これはApple Pencilの存在があって、初めて大きな価値あるものになったでしょう。MacとiPad、Apple Pencilの組み合わせは、OSの標準機能として液晶タブレットになった、ということになります。もちろん専門的なアプリの機能にはかないませんが。

 実は、スタイラスペンに対応した機種は、Androidの方で先に登場しているのですが、その代表格であるGalaxy Noteはあくまでスマホでした。少なくとも当時のSamsungの思想としては、スマホのサイズであってもペン型入力デバイスは有用だと考えていたのですね。これはスマホを紙の代わりとしようとしたとも考えられますが、画面サイズ上無理があるでしょう。 主にアピールされていたのは写真への装飾としての書き込みだったと記憶しています。しかしこの事例からは、作動方式の詳細は分かりませんが、スマホサイズの筐体にスタイラスペン対応のディスプレイを搭載することは技術的に可能だということが分かります。

 一方のApple Pencilは、未だにiPhoneには対応していません。ハードウェア的な制約や、コストの問題でしょうか。確かに第二世代のApple PencilをiPhoneの横側に付けるとサイドボタンが押せなくなったり、そもそも本体よりもApple Pencilの方が長いなど不都合がありそうです。しかし第一世代のApple PencilはペアリングするiPadとLightning端子で接続するものでした。第一世代はiPadに付けておく機能などなく、保管のことは考慮されていなかったわけです。そして、iPhoneはiPadよりも長くLightning端子を採用していたのですから、ハードウェア的な制約によりApple PencilをiPhoneに対応させられなかったわけではないように思われます。かといって費用対効果の問題でも無さそうです。Apple Pencilは最初はiPad Proのみに対応していましたが、のちに第6世代iPadに対応するからです。このiPadは廉価モデルであり、最も安価なiPhoneであるiPhone SEよりも低価格だからです。

 すると、やはりAppleはあえてiPhoneをApple Pencilに対応させていないのだと分かります。これは、iPhoneは紙の代わりになるデバイスではなく、iPhoneとApple Pencilを組み合わせても良い体験が得られない、という思想の表れなのだと解釈できます。タッチスクリーン搭載のMacを作らないとAppleの幹部が公式に言及しているのも同じで、デバイスの大きさやユーザとの距離、その使用形態に応じて適したインターフェースがあるという当たり前のことですが、これはデスクトップOSとしてのWindows8がModern UI(Metro UIと言った方が馴染みがあるかもしれませんが、この名称は使用されなくなりました)を強硬的に導入したことの失敗に象徴されているでしょう。

AndroidとChromeOS

 高性能なAndroidタブレットの選択肢がないという状況は、ChromebookがAndroidアプリに対応したことで幾分和らいだように思えます。コンバーチブル型やデタッチャブル型の、タッチパネルを搭載したChromebookは実質的にAndroidタブレットとして使えるわけです。Androidユーザからすると願ったり叶ったりのようにも思えますが、落とし穴があります。ここに搭載される画面は、ノートパソコンとしてもタブレットとしても動作しなければならないということです。それぞれに最適な画面比率が異なる場合、どちらかには最適化できないということです。

 今のiPadは、特にMagic Keyboardを付けるとクラムシェル型のようになりますから、もちろんiPadのような画面比率でもラップトップとして振る舞うことは可能でしょうし、それはスクエア型モニタ全盛の頃の一般的なスタイルでもあった訳ですから、Chromebookもその比率にすればいいのかもしれません。ですが、Android・ChromeOSにはiPadのような統一されたUI哲学の上での資産の積み重ねがありません。現状、Chromebookには16:9や16:10のほか、5:3、3:2などの比率が見られますが、それぞれの比率を活かして、どのような価値を生み出せるのかは不透明です。個人的には、(ColorOSなどのカスタムを含め)Androidスマホの中でもメーカーによって画面分割の動作が違っているのが、タブレットとしてのAndroid・ChromeOSでアプリを動かす上で致命的な障害になるのではないかと思っています。ディストリビューションとデスクトップ環境が乱立し、LinuxがデスクトップOSとしての地位を築けなかったことと重なるように思われるのは私だけでしょうか。

iPadが紙を選んだ理由

 ところで、なぜiPadは紙の道を選んだのでしょうか。iPadが3:4の比率を選んだのが紙のメタファとなるためだとしても、ではなぜ動画ではなく紙に最適化したデバイスとして設計したのか、という疑問が残ります。動画視聴デバイスとしてでは、差別化出来ないと考えたからでしょうか。

 ここで、2つの仮説を立てます。

 1つは、単純に横長表示にした際、16:9や16:10の比率では縦方向の長さが足りず、様々な点で良い体験とならない、というものです。

 一般に、タッチパネルを中心に据えた操作体系では、マウスやトラックパッドによるポインタ中心の操作体系と比べて、各種のUI要素を大きくしなければならないため、ラップトップと同等かそれよりも小さいタブレットの場合、相対的に短辺側をより長く取るべきだ、という考えには頷けます。

 なお、16:9や16:10のディスプレイでウェブブラウジングをするとそれが縦長でも横長でも見づらいからだ、という主張をときどき見かけます。たしかにその比率のタブレットでウェブブラウジングをすると見づらいと思うことも多いのですが、この主張には疑問が残ります。というのは、多くのパソコン画面は、Macも含めて、16:9か16:10を採用しているからです。しかし、同じ画面比率のタブレットとパソコンとでのウェブブラウジング体験を比較した時に、肌感覚で言えば前者の方が見づらいです。これは結局、画面サイズの違いによるウェブページの表示の最適化が、タブレットに対して行われていないという点に帰着します。

 タブレットよりもむしろスマホの方が納得する人が多いと思われますが、スマホ黎明期にはPCでの表示しか考慮していないページがほとんどでした(かつてはAppleのウェブサイトですら、iPhoneで表示した時にそのようになったという話を聞いたことがあります)。スマホの急速な普及にともなって、まずはPC版とは別に、スマホ用のページを別のファイルとして用意するという構成が多くのページで取られましたが、これは更新の手間がかさむとか、特にスマホ版でアクセス出来ないコンテンツが発生するとか、様々な問題を抱えていたため、現在ではレスポンシブデザイン(アダプティブデザインとの違いは両者の定義が曖昧なので敢えて置いておきますが、ここでは一般にレスポンシブデザインと言われるものと、アダプティブデザインと言われるものをすべてひっくるめてレスポンシブデザインとします)が一般的になりました。すなわち、表示される情報の集合と、その順序はただひとつだけ存在し、それら要素のサイズや配置の仕方などをデバイスに応じて変化させる、というものです。

 Atelier Mayaも一応、これに基づいて設計されています。ブラウザのレンダリング幅387, 743, 1079, 1600px(それぞれ最大値)をブレークポイントとし、5つのスタイルを用意しています。一般的なスマホで表示すると一番上にロゴが、その下段にNovels, Photos, Articles, Files, Introductionのリンクが表示されますが、多くのタブレットやPCで表示するとロゴとリンクは同じ段に並びます。

 そして、このレスポンシブデザインの思想は、少なくともAppleの場合はアプリのデザイン設計にも適用されます(Googleのマテリアルデザインなどデザイン設計の思想は他にもありますが、それらについては知識を持ち合わせていません)。

 もし16:9や16:10のタブレットで、タッチ操作のために各種要素を大きくした結果、ブラウジングの体験が損なわれたというのであれば、むしろ表示されるサイト側が、よりモバイルに向けたデザインで表示しなければならない、ということであると思われます。少なくとも、9:16のころのスマホと9:16のタブレットのそれぞれの縦長表示を見て、スマホでは普通に読めるのにタブレットのサイズになると見づらい、というのはサイト表示上の問題であると明らかでしょう。

 そして仮説のもう1つは、映像視聴のためにはもっと適したデバイスがあるから、というものです。

 もちろん、手元にあるデバイスの中で、最も画面の大きいデバイスがタブレットである、という状況もあるでしょうが、屋内であれば、Mac(Mac以外のPCでもよいのですが、Appleの想定としてはMac)やテレビなど、より画面の大きなデバイスがある、もしくはなかったとしてもその気になれば設置できる、ということが多いでしょう。

 今、手元にiPadとテレビ(何インチでも構いませんが、iPadよりも小さな据え置き型のテレビというのは一般的ではないでしょう)があるとします。そのような場合に、それこそ動画と電子書籍とを同時に見たいという需要があったとすると、どちらに動画を、どちらに電子書籍を表示するでしょうか。恐らくほとんどの場合、テレビに動画を、iPadに電子書籍を表示するでしょう。仮にテレビに電子書籍を表示出来るとしても、です。これは、多くの場合動画はより大きく表示することが好まれること、動画は表示される場所が手の届く範囲でなくても良いこと、電子書籍はテレビ程の大画面に表示することを考慮していないこと、電子書籍は手の届く範囲にあり、頻繁に操作されるべきこと、そもそも紙の書籍であっても手元にあること、ペンを用いて何らかの働きかけを行う対象として、動画よりも電子書籍(実際、Apple純正のブックアプリでは、PDFを書籍として保存することができ、その場合マークアップツールが表示され、書き込むことが出来ます)の方が一般的であることなどがその理由として挙げられます。そして、AppleはテレビにiPadなどから動画を送るツールとしてAirPlayを用意しています。テレビが対応していなくてもApple TVを付ければAirPlayできます。iPadの登場時には無かった機能ですが、Apple TVがなくても、MacがあればMacにAirPlayすることができます。そして、Macは書き込みツールとして利用できません。

 ここから逆説的に、動画視聴のためのタブレットというのは現状、そもそも他のデバイスと差別化出来ていないのだと分かります。画面の大きさを求めればテレビやMacが、手軽さを求めればスマホがある中で、タブレットはそのどちらのメリットも最大化できないということになります。

 10インチのディスプレイを搭載したスマートホームディスプレイであるGoogle Nest Hub Maxの公式ページではその大画面を売りにして動画視聴が出来ることをアピールしていますが、その設置場所はキッチンです。言い換えれば、テレビのない場所です。テレビのある場所ではGoogleにもChromecastやChromecast Built-Inのテレビが多数あるわけですから、結局タブレットサイズの画面と動画視聴とが最適な組み合わせになるのは、限られたシチュエーションである、ということになります。

 これらが、iPadが3:4を採用した理由であると考えます。

その他

 Appleの場合、デバイスのユーザからの距離の長さと、想定されるそのデバイスの継続使用時間とは比例し、ユーザからの距離の長さとそのデバイスのディスプレイの角の丸さは反比例するという指摘(Apple Watch, iPhone, iPad, Macについて言われるものの、私はMacと同距離かより遠いものとしてApple TVを表示するテレビも含められると考える)があります。それらと上述した縦長動画などとの関連性もいくつか指摘できそうですが、今回はやめておきます。